松市と千両市

毎年12月の第二第三週の日曜日の朝7時から松と千両だけのセリが市場で開催される。年に一度切りのせりなのでここできっちりと仕入れをしなければ年末年始のお正月花を届けることができなくなるので、いつものセリよりも気合が入って当然。

 

松は常緑樹であり冬でも緑のままで、常に青々としているその姿から不老長寿の象徴とされていたらしい。また松という語源も諸説あり、久しく齢を保つことから「たもつ」が転じて「まつ」になったという説や、葉がまつげに似ているから「まつ」、神様が木に宿るのを「待つ」などがあるらしい。一方、千両は冬の寒い時期に赤い実を豊かに付ける貴重な植物で、その価値はお金(千両)に値するという意味で名付けられたらしい。「千両」というめでたい名前なので、正月花として用いられる。ほかにも南天は「難を転ずる」など、日本人は語呂合わせがどうも好きみたいだ。

とにかく松や千両は正月の活け込、アレンジに欠かせない。

 

さて、まず12月9日に行われた松市では、生産者の高齢化、夏の塩害などの要因が重なり出荷量は昨年の90%。昨年高騰したからげ松(仏花などに使用する丈の短いもの)は相対取引(セリ前に市場の担当者とやりとりして値段と数量を提示、確保してもらう手法)で取ったのでこれ以外のものを競った。出荷量が減ったものの花屋もここ一年で減ったので左程高騰することもなく昨年並みに値段で買い付けることができた。

 

私自身を震えさせることになったのは次の週に行われた千両市。今年は特に塩害などの被害が少ないと聞いていたので昨年と同様の予算と数量を予定していた。しかし、セリの始まる前の放送で入荷量が昨年の50%!と案内された。我々買参人から動揺の声が上がった。

7時丁度セリ人一同の「おはようございます!」の合図と同時にセリが始まった。

できのいい産地の等級の高いものからせりにかかる。初値はあっという間に付き、昨年の倍の値段。気の早いセリ人が買ったものだろうと高をくくっていたが、その次もその次も高値のまま。昨年100円台で買い付けたものが500円を下らない。これだといつも350円で販売していたものがなくなる。とにかく2000本は買わないと年末商戦を迎えられないと一気にアドレナリンが上がった。セリは一口二口と箱の個数をボタンで押して買うのだが一気に買わないとせりが終わると手のひらに汗が。とにかく等級の高いものを昨年とは関係なく買った。全部で2000本ぎりぎり買い付けることができた。しかし、仕入れ金額が昨年の倍以上。例年千両市は1時間ほどで行われるのが15分間で終了。後で聞くと買えなかった買参人も結構いたらしい。千両が店頭に並ばない年末の花屋はどう考えても様にならない。しかし、この金額は相当に応えた。市場の担当者曰く、ここまで高騰するのは20年以上なかったそうだ。まあ、仕方ない。一生懸命売ろう。いい年末年始に商戦になりますように。